ドバイルの戦争

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 魔導師の言葉を聞き、杖はしばらく何かを考えていたが、やがて言った。 「人々の魂を餌に?  それは、生きた人間から奪うのですか?」  それを聞くと魔導師は、しわがれた声で笑った。 「うひゃひゃひひ、良いことを聞く。  こやつは死んだばかりの人間の魂が好物じゃ。  明晰な貴様にはこの意味が当然わかるのぅ?」  それに対し杖は、少し笑って答えた。 「私が明晰とは思いませんが、意味はわかります。  魔物を千。  南方の大国ベイシュラを攻めましょう」  南方の大国ベイシュラは、トルキスタ大聖堂から南に下ること、馬で二十日あまり。 地続きではあるが、別の大陸になる。 トルキスタ大聖堂やバザ、ホルツザムのある大陸と、ベイシュラのある大陸は、くびれのように海が迫り、そこを境に別大陸と考えられている。  くびれの所には商業都市シュマハが栄えている。 シュマハには大規模な運河があり、船舶がくびれの所を横切れる。 運河と直交する形で大きな街道もあり、交差する場所に巨大な関所がある。 交易船やキャラバンはここで高い通行料を支払わされる。  シュマハを過ぎると、ソベルグ王国という小国に入る。 この国は隣接するベイシュラの属国であり、現ベイシュラ王アランサ二世の第二王妃が、ソベルグ王の長女である。  さてベイシュラは、南方の大国の北四分の一近くを占める大国である。 南方の大陸の残りは砂漠や密林といった未開の地であるから、現実的に南方大陸の文明圏は、ほぼベイシュラが支配していると言っていい。 軍事や経済規模でホルツザムと並ぶ大国であり、支配面積だけならホルツザムの倍近くになる。  ベイシュラが大陸を制覇したのは、わずか五年前。 元々強国ではあったが、拡大路線をとったのは三十年ほど前、現国王アランサ二世の方針による。 その快進撃を支えた英雄の一人が、猛牛ゴートである。  ゴートについて、「杖」ドバイルは酷評している。 「いたずらに突撃や力押しを使う彼が、よく今まで死ななかったものだと呆れる。  記録を見る限りでも、彼は五回死んでいる」
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