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ベイシュラの悲劇は、空に突如現れた。
漆黒の渦巻く巨大な円が、紫の稲妻を光らせながら、ベイシュラ第二の都市グロンホームに広がったのだ。
グロンホームはベイシュラにとって、シュマハを越えて別大陸に外征する軍事拠点で、属国ソベルグとの国境近くにある。
今軍事上もっとも重要な拠点であるゆえに、軍総帥であるゴートはここに滞在していた。
ゴートは闇の円を目の当たりにし、激しく戦慄した。
北の大国ルビアに出現し、北の竜ガイルを瀕死に追い込み、難攻不落の王城ボルネットを陥落目前まで攻めた、化け物の軍勢。
その報告は、多くの間者から克明に伝えられている。
ルビアは強く、ガイルも強い。
ガイルは化け物の軍勢を相手に、見事に戦った。
その後、ガイルを欠くボルネットは、副将ボルスの指揮で実によく戦った。
その戦いぶりに、ゴートは多くを学んだ。
だがそのルビア勢も、危うく滅ぼされる所だった。
突如現れた馬車による救済がなければ、負けていた。
ゴートは、グロンホーム城の陸屋根に上がった。
太い眉を険しく寄せ、ギョロ目を天に向ける。
ずんぐりした体は筋肉質だが、さすがに年のせいか、階段をかけ上がると息が切れた。
闇の円は、静かだ。
城内も城下も、大変な騒ぎになっている。
とりあえず側近に指示を出し、沈静化に当たらせる。
軍が厳しく取り締まりと沈静化をした結果、半日もすれば城内外はとりあえず沈黙した。
だが、落ち着いたのではなく、沈黙しただけである。
闇の円は、動きを見せない。
翌日も、その次の日も。
ただ城下は暗く、張り詰め、何かのきっかけがあればおかしな方向へ向かいそうだった。
一週が経過し、数十万人の街が静かな恐慌に浸る中、ようやく闇の円から、魔物が落ちてきた。
わずかに、一体。
しかも小振りな白旗を冗談めかして振っている。
紫の肌に緑のタキシードをまとった、大柄な紳士風で、金色の髪はオールバック。
歪んだ笑みがむしろ恐ろしい。
紳士の魔物は、城門の外側に下り立ち、衛兵に白旗を見せながら、慇懃に一礼し、小馬鹿にした笑みを浮かべながら用件を言った。
「ゴート総帥との交渉に参った、魔導師マイクラ・シテアの全権、ホロラドと申します。
是非ゴート総帥に、お目通り頂きたく、推参いたしました」
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