ドバイルの戦争

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 十人ばかりの衛兵が紳士の魔物を取り囲み、槍をつがえる。 が、魔物が軽く指をならすと、槍が蛇に変わり、兵士たちは驚いてそれを放り出した。  紳士の魔物は、軽やかに笑う。 「ははは、無粋なことはよした方がいい。  私はその気になれば、君たちを蛙に変えて踏み潰せるんだからね。  今日は交渉に来ているのです。  ゴート総帥の所へ案内してくれたまえ。  あぁそうか、許可というものが必要かも知れないね。  待っていますよ」  そう言い終わると、紳士の魔物はふわりと浮き上がり、空中でごろりと横になった。 幾ばくもたたずに、心地よさげな寝息をたて始める。  衛兵の一人が腰の短剣を静かに抜き、眠っている魔物に忍び寄る。 が、今度は短剣が突然ずしりと重くなり、たまらず落とす。 短剣は地面に横倒しで落ちたが、地面に随分めり込んだ。 「他人の安眠を妨げるもんじゃないよ。  いい加減にしないと、この城ごとマグマに変えるぞ。  私は単にマイクラ・シテアの戯れ事に付き合ってやってるだけだ」  魔物は地獄の底から響くような声で、静かに衛兵を脅した。 衛兵らは肝が握りつぶされ、たちまち全員が失禁し、何人かは腰を抜かした。 立っていられた衛兵数人が、城内に駆け込んでいった。  衛兵の報告を受けたゴートは、唸った。 「交渉だと?  化物どもと、何を交渉するというのだ」 と、その場ではある程度強気であったが、内心は穏やかではない。 しかし、兵士たちの狼狽ぶりや、化物のまやかしの様子を聞けば、捨て置くわけにもいかない。 嘘かまことか、城をまるごとマグマに変えるという。 そうなっては、当然自分は巻き込まれる。 「よかろう、ただし、向こうは一人だけだ」  そしてこちらは百人体制で、物々しく警備する。 特にゴートの周囲は、精強な十人が固めた。  グロンホーム城は四層の石造り、外観は武骨で、ベイシュラの武威を見せつけるが、内装は極彩色を基調とし、ベイシュラの民族衣装に近いイメージの仕上げになっている。 廊下は、城らしからず細く作られており、所々段差がある。 段差の部分は照明が控え目で、知らぬ者が走ってくれば転倒しそうだ。 この廊下は城内での戦いを想定して作られた物であり、ゴートが特にこだわった点であった。 他にも、様々な所に罠が仕掛けられ、兵が潜み、隠し部屋や脱出路がある。
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