ドバイルの戦争

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 元々グロンホーム城は、前時代的で戦に向かない城だったが、ゴートが居城にするため、かなりの資金を投じて改修した。 規模はザーグ砦やルビアのボルネット城に及ばないが、万一攻め込まれたときのしぶとさや主を守る仕組みは、非常に優れていた。  その特徴は、城主謁見の間にも現れている。 謁見の間は広く、贅沢で派手な装飾が施してあるが、その派手な絨毯敷きの床下には、数十名の衛兵が潜んでいる。 しかも床板は鉄板でできており、それ自体盾になる。 また城主の椅子の後ろには、幕で隠された脱出口があり、そこにも兵が控え、逃亡を手助けする。  さらに室内に、百名。 普通なら、万全である。  そこへ、紳士の魔物が、前後左右を十名の兵に固められながら、現れた。  ゴートは覗き見穴から、魔物の姿を見ている。  魔物は、見ての通り紳士で、話は通じそうである。 だが、いかにも何かの企みがある不適な笑みを浮かべている。 普通の魔物一匹とは、明らかに質が違うと見ていい。  そう思っていると、向こうからは簡単にはわからない筈なのに、魔物とゴートは目が合った。 魔物はにたりと笑い、しかしそれで目を逸らす。 「気付かれておったわ」  ゴートは苦い顔で側近に言う。 そして忌々しげに謁見の間の袖に向かった。  銅鑼が鳴る。 それを合図に、ゴートは謁見の間に入る。 思い筋肉質の体を豪華な椅子に沈め、両腕を金塗りの肘掛けに置き、謁見の間の中央にひざまずく魔物に声をかける。 「マイクラ・シテア殿の全権、ホロラド殿と伺った。  敵地への使者の労、実に骨折りでありましょう」  化物相手に、と内心は穏やかでなかったが、表面上は、敵方の使者を丁重に迎える堂々たる将軍の態度であった。 「お目通りいただき、感悦至極でございます」  張りのある、しかしどこか凶悪な声で、魔物は応える。 未知の恐怖に唸りながらも、ゴートは偉容を崩さず、尋ねた。 「さて早速だが、用件を伺おう。  何について、交渉と?」  問いかけに対し、魔物は恭しく頭を垂れたまま、答えた。
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