ドバイルの戦争

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「三つのうちから選択をしていただきたいのです。  一つは、毎日百名の市民を、火炙りにすること。  一つは、空に準備した魔界の口から、我々の兵千を落とし、この城を攻めること。  もう一つは」  魔物はここで、極めて残忍な笑みを浮かべて、ゴートを見た。 「ゴート大将軍閣下、あなたの首だぁ」 「悪魔め!」  思わずゴートはわめいた。 こめかみには青筋が浮かび、汗が吹き出していた。  対して魔物は冷静だ。 「ええ、私は見ての通り、いわゆる悪魔ですよ。  ですが、この話は私が言い出したんじゃない。  マイクラ・シテアの『杖』が言ったことだ。  奴は私よりも余程悪魔でしてね。  だから私は、面白いから交渉役を買って出た次第です」  そう言い終わると、魔物はすっくと立ち上がった。 「明日の正午、また来る。  逃げても無駄だ、貴様の居場所ぐらい、私にはすぐわかるんだ。  地獄の果てまで追いかけて引きずり出してやる」  魔物の目がギラリと赤く光る。 するとその場にいた衛兵たちが次々に火柱に変わり、踊るようにのたうちながらバタバタと倒れていった。 その中を魔物は、ゴートに背を向け、まるで玉座へ続く絨毯を行くように、謁見の間を立ち去っていった。  ゴートはあまりの出来事にしばらく呆然としていたが、はっと我に返り、 「火を消せ、救護だ!」 と叫んだ。 周りにいた兵士たちは慌てて火だるまの兵士たちに群がり、火消しする。 ゴートも刹那逡巡するも、火消しに加わった。 「閣下、お下がり下さい、危のうございます」 「何を言うか、危ないのはわしではない!」  火だるまの兵士だ、という意味だった。 ゴートは自分のマントを剥いで、兵士に被せた。 程なく火が消える。 その兵士はまだ生きていた。 見渡せば、他の兵士もおよそ火が消し止められていた。 酷い火傷だが、まだ死んだ者はいないらしい。 「輿を! 救護室へ運べ!」  ゴートはわめく。 程なく十足らずの担架が持ち込まれ、焼け焦げた兵士が順に運び出されていった。  兵士が随分引き払ってしまい、謁見の間は随分閑散とした。 ひどく焦げ臭い。 絨毯はそこかしこが焼けて黒く、下の白いタイルが覗いている所もあった。
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