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その二日後、夏の太陽が空高く燃える頃、シ・ルシオンは郊外の倉庫へやって来た。
この倉庫は魔馬車の厩舎である。
普通の人間ではなかなか動かせない分厚い扉を、巨人は紙のように軽々と開け、中に入る。
「よう」
陽気な声が、彼を迎える。
「結局来たのか」
中には、漆黒の巨大な馬と、その足元の地べたで横になるローブの姿があった。
ローブは身軽にひょいと立ち上がり、笑った。
「来たよ」
小柄なローブは巨人に近づき、その限りなく鍛えられた胸板をピシャピシャ叩いた。
巨人は特に何の反応も示さない。
「路銀を渡し忘れてた。
今の教会は貧乏だから大して渡せないが、往復ぐらいはできるだろうさ」
そう言ってローブは、手に持っていた巾着袋を巨人に手渡す。
中には、数日分の宿と食事を賄うぐらいの、今までと比べると随分ささやかな金が入っていた。
ローブは色々と言葉を探した。
さ迷うように探した。
だが、
「じゃ、二人とも、頼むよ」
という言葉しか見つからなかった。
「ああ」
巨人は短く返す。
オデュセウスは、
「こちらのことは、お願い致します」
と言った。
巨人は馬車に乗る。
漆黒の巨馬が思い鉄扉を頭で押し開け、夏の大地が広がる。
魔馬車が轟音と共に駆け出した。
跡にはわだちと土煙、そしてローブが残された。
「まったく、つれないねぇ」
ローブは右手で髪をくしゃくしゃとかき回し、肩を少し落とした。
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