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ところがローブはそんなことなどお構いなしで、彼はロドの執務室の古めかしく豪華な扉をノックし、返事も待たずに入った。
「またお前は、そういう風にこちらの返事も待たずにズカズカとだな」
渋い壮年の声が返ってくる。
奥の古風でどっしりした執務机には、随分白髪の増えた、厳格そうな司令官が呆れ顔でいた。
ロドである。
数名の副官も、それぞれ執務中である。
彼らは面白そうにローブを見ている。
「すいませんすいません、例の市民誘導の件ですよ」
へらへら笑いながらローブは言う。
その言葉を聞くと、ロドは副官たちを退室させようとした。
が、ローブはそれを制する。
「いや、いいですよ、実行するんです。
彼らもいた方が、手間が省けます」
「本気か?」
思わずロドはそう返した。
「五十万人だぞ?」
「はい、五十万人です。
準備はできてますよね?」
ロドは苦り切った顔で立ち上がる。
「無論だ。
誘導計画はとうに策定してあるし、命令ひとつで十日後には移動開始、それから八日で完了だ。
だが、現実問題として、そんなことをしていいかは別問題だ。
市民が納得するかどうか」
「そこはほら、今から教皇猊下様にお願いするんですよ」
そう言ってローブは、右手の古文書を、チラシか何かのような扱いでロドに示した。
「このトルキスタ大聖堂、何のために作られたと思います?」
ローブのこの言葉に、ロドはひどく嫌な予感がした。
その正体はわからない。
が、軍人である彼がかつて経験したことがないほど、実に嫌な予感だった。
「お前が現れてから、俺には理解しがたい事ばかりが立て続けに起こる。
いい迷惑だ」
「あはは、でも俺のせいじゃないですよ」
そう言った後、ローブは少し伏し目がちになった。
少しためらったあと、
「まぁ、教皇猊下のところへ行きましょうか。
猊下も交えてお話ししましょう」
と、どこか儚い様子で、ロドをいざなった。
ロドの執務室は大聖堂の四階で、教皇の居住区は五階にある。
謁見の大広間の奥で、百人を越える聖騎士達が衛兵として警護している。
「ご苦労」
ロドは彼らを順に労いながら、ローブとフォルタ、そして数名の助手を引き連れて居住区に入る。
居住区とはよく言ったもので、大小合わせて十四の部屋がある。
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