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「オデュセウスの神託以来だな」
昨今かなり実力者の地位をしめているローブも、あまり頻繁に教皇に会うことはない。
これにはいくつも理由があるが、やはり教皇はそれだけの絶大な権威があったと言える。
「失礼いたします、ロドにございます」
居住区の一室、五名の警護が張りついている扉の呼び鈴を鳴らし、ロドは告げた。
しばらくして扉が開く。
開けたのは中年の執事役の神官だった。
「急なことで恐れ入りますが、ローブと共にご面会賜りたく参りました」
神官はしばらく虚ろな顔でロドとローブを見比べていたが、やがて無言で奥へ下がった。
ロドとローブが苛つく程度に待たされた頃に戻ってきて、
「お会いいただけるそうです。
どうぞ」
と、彼らを迎え入れた。
室内は、大聖堂の基調である大理石の壁や床、天井で、天井はわりと高かった。
窓から差し込む午後の日差しは、初夏を感じさせた。
床の絨毯は赤に複雑な模様が施された逸品で、毛足が長く目が詰まってしっかりした踏み心地だった。
部屋の至るところに、いつの時代のものかわからない貴重な骨董の調度が並んで、豪華だった。
美しく清掃され、整頓され、しかしどこか秩序が悪い印象を受けた。
奥の部屋に入ると、ソファに腰かけた、痩せて小さな老人がいた。
法衣ではなくゆったりとした部屋着姿なので、とても教皇とは思えない印象だった。
「猊下、突然の訪問にお応えいただき、誠にありがとうございます」
ロドが恭しく礼をする。
ローブは適当に会釈する。
「まぁ、座りなさい」
弱々しい声である。
この時代には極めて珍しい、八十を越える老齢である。
老人の勧めに従い、二人は教皇の向かいのソファに腰かけた。
フォルタはローブの後ろに、ロドの側近たちは表の間に控えた。
「ソルド様の夢を見てね、君が来るんじゃないかと思っていた。
望みを言いなさい。
私に奇跡は起こせないが、人としてできることは協力しよう」
その言葉を聞いて、ローブはどきりとした。
穏やかに笑う老人の顔を、ローブは正視できなかった。
「あぁー、そうですか。
それはその、ありがとうございます」
頬を人差し指で掻きながら、ローブは何かをはぐらかすように言った。
だが、それもどこか虚しく感じられたので、ローブは姿勢を正し、凛とした顔で教皇と向き合った。
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