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やがて神託の発表から十日が経つ。
聖騎士団の準備は実に見事で、予定通り避難が開始された。
健常者はもちろん、病人や老人、子供連れも、分け隔てなく、家族が離れることもなく、避難が行われた。
ローブは避難開始に先立ち、群衆に呼び掛けた。
「何せ、生きていこう。
これからなにが起ころうと、俺たちは生きていこう。
それこそが、大賢者ソルドの願いだ」
彼は華やかに、しかしどこか悲しげに笑い、じゃあ行こうかと、近所にでも出掛けるように、群衆をいざなった。
なぜかその姿が、人々の心を妙に震わせ、人々はローブに付き従って、穏やかに避難を開始した。
避難初日を終えた夜半過ぎ、ローブはロドの執務室を訪れた。
まだロドは執務をしていた。
副官たちは今日はもう退室している。
「お前もまだ仕事か」
「まあね、こう見えても働き者なんです」
半笑いでローブは応える。
ロド少し延びをして、椅子から立ち上がる。
「で、何の用だ?」
「避難完了予定の日ですが、近隣から援軍を寄越せませんか?」
ローブのその言葉に、ロドは怪訝な顔をする。
「どういうことだ?
何か問題でも?」
「市民を魔物たちが襲うかもしれません。
その対策です」
ロドは渋い顔になる。
「なるほどな。
それも、例の女神殿に聞いたのか?」
その質問に、ローブはニヤリと笑って応えた。
「まあそうです。
少なくとも、魔物の軍勢は現れます。
大聖堂の軍が今、三万でしょう?
それでは千を相手にするのがやっとですし、最初からいるとわかってる兵を相手にするのは、わりと簡単でしょう?」
ローブの言葉に、ロドはより一層苦々しい顔になった。
「なら一体、何千必要なんだ?」
「一万を、二つ」
「バカ言え」
ロドは呆れ顔になった。
が、ローブの眼差しは、明らかに本気の光を放っていた。
譲るつもりのないのが、すぐにわかった。
「まったく、無茶苦茶だ」
ロドは深いため息と共に、椅子にドスンと座った。
「ありがとうございます!」
ローブはいたずら小僧の様な満面の笑みで、陽気に言って、わざとらしい最敬礼をする。
ロドはその様子を見て、馬鹿馬鹿しく思えて少し笑った。
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