運命の日

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 魔馬車は、ガラシェへ向かってひた走る。 真夏の旧街道は荒れ果て、民家もまばらである。 ある時は草原を、ある時は山道を、ある時は荒野を走った。  シ・ルシオンもオデュセウスも、疲れを知らない。 魔法で動くオデュセウスはもとより、巨人は人とも思えぬ強靭さであった。  二人がガラシェの山地に着いたのは、出立から三日目の黎明であった。 ここでシ・ルシオンは馬車を降り、巨大な剣を背負って、山道に分けいった。 冬場は過酷だが、夏場であれば平凡な山である。 夕刻には、中腹にある「聖地」にたどり着いた。  氷壁がそびえている。  夕陽を受けて、それは赤く輝いていた。  氷壁の中には、幻想的に美しい女が、祈りを捧げる姿で封印されていた。  シ・ルシオンが彼女の前に立つと、彼女は祈る手をほどき、 「待っていました」 と、静かに言った。  彼女は、笑うでもなく、悲しむでもなく、微妙な顔をしている。 「少し、離れていて」  彼女の請いに、巨人は狭い聖地の端にある岩の辺りへ移動した。 それを見てから、リーファは小さな声で何かを唱えた。  その途端、氷壁全体が白く輝き、同時に凄まじい音と共に全体に無数の亀裂が蜘蛛の巣のように走った。  氷壁が砕け散り、方々に破片が飛び散る。 シ・ルシオンは咄嗟に剣を盾にして、刺さるのを防ぐ。  次の刹那、辺りが急激に冷え込む。 まるで突然冬になったようだ。 冷たい風が吹き、木々に霜が張り付いている。  シ・ルシオンが氷壁のあった場所へ目を向けると、そこにはリーファが浮き上がって、空中にたたずんでいた。 その姿は限りなく美しく、そして尋常でなく強烈な力を放っていた。 「急ぎましょう」  彼女はふわりとシ・ルシオンのそばへやって来て、戦士をいざなう。 「ああ」  下山は、かつて二人でこの山を登ったときとは違い、リーファは空中をふわふわ漂っていたため、難渋はなかった。 ただ一つ、リーファの周りはひどく冷え、彼らの通り道だけが冬になる有り様だった。  夏の早い朝が明け、太陽が上る。 かつてはリーファは夜明けと共に消えたが、今は消えない。 以前と明らかに様子が違った。 「封印は、力をためこむためのものです」
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