運命の日

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 彼女はシ・ルシオンの疑問を勝手に知り、答える。 しかし戦士は黙ったままだ。 リーファは嘆息し、戦士の跡をついていく。  太陽が南中を過ぎた頃、二人は山のふもとに下りてきた。 そこにはオデュセウスが静かにたたずんでいた。 「何ということだ」 というのが、オデュセウスの最初の言葉だった。 彼はリーファを見るのが初めてである。 その神がかった美しさと言い、彼女を取り巻く冷気と言い、その存在は実に幻想的で、この世のものとは思えない不思議な存在だった。 それが突然、戦士と共に現れたのだ。 「山の上にいる女神様」という程度には聞いていたが、本当に目の前にいると、新鮮で衝撃的だった。 「本当にドルアーノの馬車の様だわ。  オデュセウス、あなたはいつだって、本当の意味で気高い人。  騎士道に恥じないあなたを運命が選んだのも、わかる気がします」  透き通るような声で、彼女はオデュセウスに語りかけた。 オデュセウスは動揺したが、 「あなた方をお連れするようにと、ローブ殿より仰せつかっております。  時間もありません。  乗り心地は優れませんが、参りましょう」 と応えた。 「ありがとう」  そう言って彼女は、馬車にふわりと乗り込む。 「今の私なら、振り落とされたりはしません。  もちろんシ・ルシオンも。  だからお願い、急いで」  オデュセウスはうなずく。  シ・ルシオンが乗り込み、その巨大な右腕でリーファを包むように抱く。 「冷えるわ」 「構わん。  俺は、たぎっている。  力を無駄に使うな」  リーファはその言葉が、やけに温かく感じられた。 「ありがとう」  戦士は何も応えず、鎖の手綱を握り、それをびしりと打った。 魔馬車が猛然と駆け出した。  その翌日の夕刻。  ザナビルクでは、依然としてトルキスタ大聖堂からの避難が続いている。 およそ八割の市民が避難を完了し、残る地区からも順調に移動が行われている。  ローブは連日、仮眠をとる程度で避難活動の指揮に当たっている。 時折、 「これで実は何も起こりませんでした、なんてことになったら、殺されるんだろうな」 とも思ったが、しかしリーファの予言は絶対に当たる。 明日には、トルキスタ大聖堂が消滅するのだ。 そこに市民を巻き込むわけにはいかない。  そして、まだ誰にも告げていない予言が、やって来る。  
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