運命の日

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 ロドは少し驚いた。 戦の経験がないはずのローブが、実に的確な意見を言っている。 ロド自信はこの布陣を攻撃のチャンスと睨んでいたが、その考えを改めた。 「ふむ、とりあえず布陣を済ませて、そのままじっと様子見するか」  この考えは、正鵠を射ていた。  魔物の軍勢の指揮官は、悪魔の貴族ホロラドである。 「誘い込んで、いい気になった所でさらに同胞の数を増やせば、魔王様への供物を増やせるだろう」  空には相変わらず緑の巨大な円が渦を巻いている。 これまでマイクラ・シテアが何度も繰り出してきた物と同じだが、色が違う。 これは単に、ホロラドの好みだった。 「黒なんて、無粋だからね。  どうせなら私のタキシードと同じ緑がい」  彼にとって今回の行動は、単なる遊びだった。 「それにしてもマイクラ・シテア風情が魔界との通路を開くとはね。  私もできるけど」  紫に金の縁取りを施した豪華なソファに寝そべり、彼は丘の上を眺めている。 聖騎士団の部隊が移動し、市民の盾になるべく人を整えている。 「それじゃ、進めぇ」  彼は腰の剣を抜き、それを丘の方に向け、半笑いで号令する。 魔物たちが邪悪な笑い声を上げながら、一斉に前へ進む。  丘の上の騎士団は、魔物たちが近づくのを待ち、斜面に差し掛かった所で動く。 騎馬隊が斜面を駆け下り、勢いを付けて魔物の軍勢とぶつかる。 左右に展開した部隊が挟撃し、魔物の軍勢は一気に不利な状況となる。 「ハハハハ、強いねぇ、よぅし、逃げ出そうか」  ホロラドは再び剣を掲げ、今度は後ろに向けた。 魔物たちはそれにしたがい、するすると下がる。  騎士団は最初、追いすがろうとした。 が、ラッパの号令が鳴り響くと、きびすを返して丘の上に一斉に引き上げてしまう。  ホロラドは、若干苛ついた。 「生意気な、人間ごときが」  彼は再び魔物たちを反転させ、騎士団の陣へ向かわせる。 だが、どことなしに統制のとれていない魔物たちは、機敏に動く騎士たちに、あるいは囲まれ、あるいは分断され、徐々にその勢いを削がれていく。 「素人だ」  ロドはそう感じる。 彼は一瞬、一気に決着をつけようかとも考えた。 しかし踏みとどまる。 「いや、敵陣に引き込まれるのは危険だ。  ローブが言うとおり、罠がある。  それに、目的が違う」
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