運命の日

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 今回の騎士団の軍事行動は、あくまでも市民の防衛が最優先である。 もちろん敵を殲滅するのも一つの方法だが、得体の知れない魔物相手だけに、用心しなければならない。  それに、例のザーグ砦攻撃。 「あの指揮官がいるとすれば、あの安易な移動も、何かの術策と考えられなくもない」  ぼそりとロドはローブに言う。  だが、ローブは笑ってそれを否定する。 「ああ、それはないです。  じゃぁ俺は、市民の避難の方に戻ります。  あとはまぁ、お願いしますよ」  そう言ってローブはロドの本営からさらりと出ていってしまう。 ロドは怪訝な顔をしたまま残された。  ローブは市民の避難の補助をしているフォルタの所へ戻る。  避難行動は佳境に入っており、明朝には完了予定である。 フォルタは騎士団と連携をとり、よく指揮をしている。 派手さはないが、非常に優れた能吏である。 特に最近は、二十代の若者にはかなり荷が重いような仕事でも、平気で振れるようになっている。 バルダでその名声が上がりつつあるマルタもそうだが、つくづくこの二人は有能である。 「どうだ?」  ロ-ブの問いに、 「おおむね問題ありません。  今夜半過ぎには教皇猊下もご到着です」 と、短く答える。 「そうか。  魔物どもの方も、たぶん大丈夫だ。  指揮官はドバイル将軍じゃない」 「え?」  フォルタは固まった。 その顔を見て、ロ-ブはニヤリと笑う。 「お前はどう思う?  ベイシュラ攻撃とザーグ砦攻略。  あんな芸当が、ドバイル将軍以外にできると思うか?」 「しかし将軍は、あの時亡くなりました」 「オデュセウスも旦那に斬られたよな」  フォルタは表情を凍りつかせた。 それは自分の師が、紅い宝玉によって死後もこの世に存在していることを示唆しており、またマイクラ・シテアと接触したことも示していた。 「ドバイル様は、マイクラ・シテアの配下になって、あの戦争を主導した、ということですか?」 「だろうな。  確証はないが、少なくともあのときの手紙には、マイクラ・シテアと会ったと書いてあった」  フォルタはその長身を縮こまらせ、手を揉み、苦悶の顔つきだった。
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