0人が本棚に入れています
本棚に追加
「ドバイル様は、あまり人を殺さない軍略家でした。
ザーグ砦やホルツザムを、あれほど攻めるとは、思えません」
それを聞くと、ローブは深々とため息をつき、そしていきなりフォルタの胸ぐらを掴んだ。
フォルタが今まで一度も見たことのない、死を予感させるほどの強烈な眼光だった。
「あまり人を殺さない?
するとお前は、ドバイルが善人だってのか?
戦争ってのは、多かれ少なかれ、人が死ぬんだよ。
俺の親も、そうやって殺された。
お前の知ってるドバイルも、お前の知らないドバイルも、シ・ルシオンも、オデュセウスも、みんな人殺しなんだ。
どんな思いか、どんな意図か、どんな理想か、どんな立場か、どんな理由か、関係ねぇ。
多いも少ないも関係ねぇ。
ただそこに、死体がいくつも作られ、その何倍もの泣く人が作られる。
そのためにとんでもねぇ資材と金と食料と技術が注ぎ込まれる。
それが戦争で、それが軍略家ってもんだ。
為政者や将軍ってのは結構な身分だな。
意図が正しければ、国が安泰だったら、必要な数だけ殺すんだったら、国際的な評価が得られるんだったら、正義でいられるらしいな。
フォルタ、てめえの女を、親を、マルタでもいい、戦場に放り出して八つ裂きにされて、それからもう一度同じ台詞を言ってみろ。
断言してやる。
戦争は、誰がどんな口実とお題目を準備しても、結局は欲望から生まれる悪なんだ」
淡々とした、しかしその底にマグマが煮えたぎる声でそう言い終わると、ローブはパッとフォルタの胸ぐらを放した。
若者は青ざめた顔で、恐怖をにじませていた。
「も、申し訳ありません」
「謝るこっちゃねぇ」
ローブはもう普段通りの彼だった。
「本当に優れた軍略家ってのは、必要だったらその分だけ人を殺せるのさ。
そのための技術も精神も持ってる。
ドバイル将軍がまだましなのは、酔狂で人殺しをやってる人じゃないってことさ」
ローブは苦い顔になる。
最初のコメントを投稿しよう!