運命の日

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「ドバイル様は、あまり人を殺さない軍略家でした。  ザーグ砦やホルツザムを、あれほど攻めるとは、思えません」  それを聞くと、ローブは深々とため息をつき、そしていきなりフォルタの胸ぐらを掴んだ。 フォルタが今まで一度も見たことのない、死を予感させるほどの強烈な眼光だった。 「あまり人を殺さない?  するとお前は、ドバイルが善人だってのか?  戦争ってのは、多かれ少なかれ、人が死ぬんだよ。  俺の親も、そうやって殺された。  お前の知ってるドバイルも、お前の知らないドバイルも、シ・ルシオンも、オデュセウスも、みんな人殺しなんだ。  どんな思いか、どんな意図か、どんな理想か、どんな立場か、どんな理由か、関係ねぇ。  多いも少ないも関係ねぇ。  ただそこに、死体がいくつも作られ、その何倍もの泣く人が作られる。  そのためにとんでもねぇ資材と金と食料と技術が注ぎ込まれる。  それが戦争で、それが軍略家ってもんだ。  為政者や将軍ってのは結構な身分だな。  意図が正しければ、国が安泰だったら、必要な数だけ殺すんだったら、国際的な評価が得られるんだったら、正義でいられるらしいな。  フォルタ、てめえの女を、親を、マルタでもいい、戦場に放り出して八つ裂きにされて、それからもう一度同じ台詞を言ってみろ。  断言してやる。  戦争は、誰がどんな口実とお題目を準備しても、結局は欲望から生まれる悪なんだ」   淡々とした、しかしその底にマグマが煮えたぎる声でそう言い終わると、ローブはパッとフォルタの胸ぐらを放した。 若者は青ざめた顔で、恐怖をにじませていた。 「も、申し訳ありません」 「謝るこっちゃねぇ」  ローブはもう普段通りの彼だった。 「本当に優れた軍略家ってのは、必要だったらその分だけ人を殺せるのさ。  そのための技術も精神も持ってる。  ドバイル将軍がまだましなのは、酔狂で人殺しをやってる人じゃないってことさ」  ローブは苦い顔になる。
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