0人が本棚に入れています
本棚に追加
フェリスは直感した。
「これは、とてもいけないことが起ころうとしている」
起こったのではなく、これから起ころうとしている。
激しく続くこの地震は、その始まりにすぎない。
バラック街が、廃墟に変わっていく。
人々が家の下敷きになり、あちこちから火の手が上がる。
無数の悲鳴。
助けて、助けてと。
そこかしこから白いふわふわした、しかし恐怖にとらわれた気配のある物が浮かび上がる。
「死んだ人の魂?」
それはバザ大聖堂の方へ、無理矢理に引っ張られていくようだ。
すごい数だ。
揺れが起こる度に、それは一斉に沸き上がり、音にならない悲鳴を撒き散らしながら吸い寄せられていく。
「これは、何なの?
何なの?
これは一体、一体私たちは」
どれ程の罪を犯したというのか。
どれ程の罪をおかせば、このような事が起こるのか。
再び、一際大きな揺れが起こる。
黒い稲妻が天空を駆け巡る。
そしてそれは、出現した。
バザの市街地、大聖堂に程近い場所であろうか。
最初それは、紫と金の山に見えた。
大地が盛り上がったような感じだった。
しかし次に気づいたのは、それが明らかに生きていることだった。
それは地震で死んだ人々の魂をずるずる吸い込み、むさぼり食らっている。
地震で生き残った人々の中には、そのあまりにも巨大で絶望的な「生物」を見て、衝撃のあまり死んでしまう人もいた。
それは、太った芋虫のような姿で、全身は紫の鱗でおおわれ、その一つ一つに極めて邪悪な金色の目がぎらつく。
足か手かわからない物が下部にずらりとならび、その真ん中に円い口が穴を開けている。
口には数百はあろうかという歯がびっしりと何十にも生え、そこに人々の魂が吸い込まれていく。
歯はにゅるにゅるという感じの動きで魂をすりつぶし、魂が血を流しているのが見てとれた。
真夏の良く晴れたバザの空は、紫のそれに支配され、この街の終わりを告げていた。
「いや、いや、いやぁ!!」
フェリスは絶叫した。
「いや、いや、いや、いや!!
いやあぁ、ああぁ、ああぁぁ、ああぁぁ」
彼女は崩れ落ち、だらりと口を開き、その絶望を見ながら、よだれと涙を流して泣き出した。
赤子が母親を求めて泣くように激しく、しかし実に醜い様で、泣いた。
最初のコメントを投稿しよう!