空飛ぶ船

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 フェリスは直感した。 「これは、とてもいけないことが起ころうとしている」  起こったのではなく、これから起ころうとしている。 激しく続くこの地震は、その始まりにすぎない。  バラック街が、廃墟に変わっていく。 人々が家の下敷きになり、あちこちから火の手が上がる。 無数の悲鳴。 助けて、助けてと。  そこかしこから白いふわふわした、しかし恐怖にとらわれた気配のある物が浮かび上がる。 「死んだ人の魂?」  それはバザ大聖堂の方へ、無理矢理に引っ張られていくようだ。 すごい数だ。 揺れが起こる度に、それは一斉に沸き上がり、音にならない悲鳴を撒き散らしながら吸い寄せられていく。 「これは、何なの?  何なの?  これは一体、一体私たちは」  どれ程の罪を犯したというのか。  どれ程の罪をおかせば、このような事が起こるのか。  再び、一際大きな揺れが起こる。  黒い稲妻が天空を駆け巡る。  そしてそれは、出現した。  バザの市街地、大聖堂に程近い場所であろうか。 最初それは、紫と金の山に見えた。 大地が盛り上がったような感じだった。 しかし次に気づいたのは、それが明らかに生きていることだった。 それは地震で死んだ人々の魂をずるずる吸い込み、むさぼり食らっている。 地震で生き残った人々の中には、そのあまりにも巨大で絶望的な「生物」を見て、衝撃のあまり死んでしまう人もいた。  それは、太った芋虫のような姿で、全身は紫の鱗でおおわれ、その一つ一つに極めて邪悪な金色の目がぎらつく。 足か手かわからない物が下部にずらりとならび、その真ん中に円い口が穴を開けている。 口には数百はあろうかという歯がびっしりと何十にも生え、そこに人々の魂が吸い込まれていく。 歯はにゅるにゅるという感じの動きで魂をすりつぶし、魂が血を流しているのが見てとれた。  真夏の良く晴れたバザの空は、紫のそれに支配され、この街の終わりを告げていた。 「いや、いや、いやぁ!!」  フェリスは絶叫した。 「いや、いや、いや、いや!!  いやあぁ、ああぁ、ああぁぁ、ああぁぁ」  彼女は崩れ落ち、だらりと口を開き、その絶望を見ながら、よだれと涙を流して泣き出した。 赤子が母親を求めて泣くように激しく、しかし実に醜い様で、泣いた。  
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