空飛ぶ船

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 その頃、トルキスタ大聖堂のあるザナビルク郊外、フルーゲンの丘では、いまだにトルキスタ聖騎士団と魔物の軍勢とが、膠着状態のまま睨みあっていた。  避難活動は先ほど完了した。 ローブは避難場所一帯を馬で回り、人々を励ましている。 が、その気持ちは、他のことに向いている。  彼自身、リーファの予言があまりにも桁外れ過ぎて、今一つ信じられないでいる。 トルキスタ大聖堂とその周囲が、「壊滅する」のならまだわかる。 だがリーファは言った。 「消滅する」  消えるというのだ。 「どうやって?」  そこまでは聞いていない。 我ながら迂闊だと思う。 「ま、今さらしょうがねぇか」  何かとんでもないことが起こるという事なのだろう。 ローブはどこか呑気に、そう考えていた。 自分にできることはもうここまでと、彼は何となく悟っていた。 「あとは、神にでも祈っておくさ。  ろくでもねぇ神にな」  ふと彼は、ソルドの墓で見た、ソルドの最後の書を思い出した。 「俺は、ソルドの願いを、叶えられるのかねぇ」  魔物の軍勢を見下ろせる場所にやって来た。 ロドは上手に指揮をしている。 無理に攻めない限り、時間までは持ちこたえるだろう。  その事に苛立っているものもいる。 魔物の軍勢を率いるホロラドである。  彼は我慢の限界に来ていた。 押したら引いていき、引いたらある程度出てくるが、やはりある程度で引いていく。 のらりくらりとした戦闘が、全然楽しくなかった。 何せ彼は悪魔である。 しっかり殺戮したいのだ。 これはそういう遊びなのだ。 その楽しみを、人間風情に邪魔立てされている。 「許せん」  彼は相変わらず紫地に金縁のソファに寝転んだまま、剣を天の緑の円に向ける。 それを降り下ろすと、緑の円からバラバラと無数の化け物が降ってきた。 既存の千に加え、さらに千ほど降ってきただろうか。 羽の生えたもの、斧を持ったもの、ドラゴンなど、色々だ。 それらが既存の魔物たちと合流し、一気に倍の大部隊となる。 ひとしきり魔物が降ってくると、緑の円はするするとしぼみ、青い夏の空に変わる。 「ひねり潰す」  ホロラドは剣を丘に向ける。 すると魔物たちはしばらくざわついたあと、ぎゃあぎゃあ雄叫びを上げながら丘に向かって動き出す。
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