空飛ぶ船

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 丘の上で、砲台式と思われる狼煙が二発撃ち上がる。 だが、それ以外に特に目立った動きはない。  魔物の軍勢が、丘の斜面に差し掛かる。 すると、丘の上で構えていた聖騎士団の軍勢三万が、丘を駆け下りる。 今までより少し勢いがある。 だが魔物たちは二千、人間たちの軍勢六万に相当する。 まともにぶつかれば、魔物の軍勢が有利だ。 戦争に詳しくないホロラドでも、それはわかる。 「決死の突撃かなぁ?  泣かせるねぇ」  ホロラドは半笑いで、わざとらしく涙を拭う振りをする。 「そして皆、我々の餌になる。  今日はご馳走だ」  騎士団と魔物の軍勢が、激しく正面から激突する。 基本的に坂を下る騎士団に勢いがある。陣形も魔物たちを取り囲むような扇形で、悪くない。 が、いかんせん、兵力的に倍ほどの差が生まれた。 激闘の末、騎士団が押し込まれつつある。  ローブは丘の上から、その様子を見る。 そして、遠くの方も見る。 祈る気持ちで目を凝らす。 「よし」  魔物の軍勢の後方、左翼と右翼両方から、土煙が近づいてくる。 それぞれかなりの大部隊である。 速い。 騎馬隊らしい。  伏兵である。  先日ロドに手配を依頼していた、近隣からの応援部隊であった。  太陽が高い。 正午が近づいてきている。  伏兵部隊が魔物の軍勢に突撃する。 元々大した陣形でもないが、伏兵の攻撃に慌て、魔物たちは散り散りになる。 そこを多人数で囲まれ、滅多刺しにされる。 逃げ出す魔物も現れた。 魔物の軍勢は、砂糖菓子のように脆く崩れ始める。  その時、異様な威圧感が戦場を駆け抜ける。 騎士団も魔物たちも、思わずそちらに目を向ける。  ホロラドが中空に浮かんでいる。 遠目で見えなくてもわかる。 憤怒の形相だ。  魔物たちが恐怖に怯え、必死の様子で再び騎士団に向かってくる。 戦局は再び拮抗する。 「それでいい。  魔王様にどんな顔を見せるのだ」  そう呟くと、ホロラドは剣を天に突き上げる。 するとその剣の上に、小さなマグマの玉が現れる。 それは見る見る巨大化し、ホロラドの何十倍もの大きさになる。 「みぃな殺しぃ!」  ホロラドは剣を激戦の続く戦場に向けて振る。 すると、巨大なマグマの玉がぽんと跳ね上がり、騎士団と魔物たちが入り乱れるど真ん中に飛んでいった。
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