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「退け、退けぃ!」
前線近くににいたロドは、必死で叫ぶ。
だが、それはあまりにも一瞬過ぎた。
巨大なマグマの玉は、べしゃりと戦場に落ちた。
灼熱の津波が戦場に沸き起こり、騎士団も魔物も区別なく、あっという間に呑み込まれた。
まばたきする程の時間で、騎士団は五千人以上が、跡形も残らない程焼き付くされてしまった。
ロドも巻き込まれた。
「退け、退け、ロド元帥討ち死に!
退け、退けー!」
水溜まりならぬ巨大なマグマ溜まりの外側で、あちこちから絶叫が飛び交う。
その様子を、丘の上から見ていたローブは、あまりの現実味のなさに、ただ呆然とするだけだった。
周囲にいる市民たちも、戦場の様子を見て、口々の悲鳴を上げた。
しばらくして、フォルタがローブの元へ駆けつける。
「ロド元帥、恐らく巻き込まれました」
なるほど、騎士団も散り散りに後退している。
指揮官を失った様子がわかる。
「あんな馬鹿なことが、あってたまるか」
ローブは吐き捨てた。
だがそれは、人肉の焼ける臭いとなって彼に現実を突きつける。
とりあえずローブは、市民たちを落ち着かせるべく、走ろうとした。
その時。
ローブは西の空に、筆舌に尽くしがたい違和感を感じた。
そこにいた全ての人々が、一斉に動きを止め、西の空を見た。
人間だけではない。
戦場にいた魔物たちも、一斉に西を向いた。
紫の染みのような物が、西の空に浮かんでいる。
ゆっくりとゆっくりとそれは近づいている様に見える。
人々が、バタ、バタ、と少しずつ倒れ始める。
首に刃を当てて、自殺する人がいた。
自分の腕に噛みつき、引きちぎる人がいた。
自分の目を指で突き、見ないで済むようにする人がいた。
近くの女を捕まえ、レイプしようとする男もいた。
近くの人を、無造作に刺し殺す者もいた。
悲鳴が、上がらない。
どよどよと騒ぎになりながら、丘は妙に静かだった。
「なんだ、あれは?」
ローブは絞り出すような声で言った。
知っている。
ここにいる人々のなかで、ローブだけが、それが何かを知っている。
リーファから聞いている。
だが、想像していたものと違う。
違う。
違いすぎる。
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