空飛ぶ船

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「あれが、大聖堂を消滅させるのか?」  近づいている。 それは巨大だ。 巨大な、この世のものならざる生命体だった。 芋虫を思わせる動きと、紫の体。 猛烈な魔の気配。 まだ随分遠いはずだが、既に空を覆うばかりに巨大だ。 「来るな」  ローブは呟く。 またそれは近付く。  その時、突然大地が、低い音で唸り始めた。 その音は、トルキスタ大聖堂の方角から聞こえる。  あの巨大な生物が近付くにつれ、地鳴りは大きくなる。 丘の反対側だ。  ローブは無我夢中で馬を走らせた。 馬も恐怖に怯え、上手に走れない。 しかしなんとか、トルキスタ大聖堂の見える場所へたどり着く。  ずん、という突き上げるような衝撃が、地面から放たれる。 大聖堂が、街が、崩れる。 もう一度、衝撃が来る。 さらに崩れる。  大聖堂とそれを取り囲む街が、黒く輝き始める。 美しい円に、禍々しい模様が描かれた、街全体を覆い尽くす極めて巨大な魔方陣だった。  大地の底で、何か圧倒的な、計り知れない程に巨大な何かが、にたりと笑う。  魔方陣が一際黒く輝き、轟音と共に大聖堂や街の下から、魔方陣の形そのままに、大地が持ち上がってくる。  大聖堂が、街が、海の砂のようにサラサラと崩れ、跡形もなく消え去っていく。  黒い真円の円盤。  その下から伝わってくる、西の空の化け物をすら可愛く思えるほどの、魔の気配。  魔界門だった。 「やべぇ、やべぇだろ!」  ローブはなにもできず、叫ぶだけだった。  その時ローブは、遥か頭上で妙な音を聞いた。  何か巨大なものが、ひび割れる音だった。  ローブはそれを見上げる。  それは、太陽。  太陽に、亀裂が走っている。  その向こうに、もう一つ、にたりと笑う圧倒的な存在がいる。 「天界門!」  その様子を、マイクラ・シテアは船から見ている。  もはや船は従順だった。 マイクラ・シテアを支配者として受け入れ、その命ずるままに、今まさに出現した魔界門へ向けて、うねうねとその巨体を進める。 「あれこそまさに、魔界門!  わしが生涯を掛けて求めた、究極の力!  御子よ、貴様の力で、あの門をこじ開けよ!」  
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