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「どうした?誰かに用?」
目尻に溜まった涙を人差し指で掬いながら、あたしを見下ろし尋ねる蒼。
まだ息が乱れていて、表情と共に直そうとしているのが見て取れた。
はっ……!
ついあたし、間抜けな表情のまま見入ってた!
自分の醜態に気付かされたあたしは、慌てて口を開いた。
「蒼に、用事があって!」
咄嗟に出した声は音量調節が出来ず、言っていて耳に響くほどだった。
「あ、ごめん」
両手でパッと口を塞ぐあたしを見て、蒼はフワリと笑う。
「ハハ、良かった。俺で」
笑みをこぼしたままの蒼の言葉に、一瞬思考がフリーズする。
……え?
今……の
「俺も桃井のとこ行こうと思ってたんだ。
まだ朝礼まで時間あるし、行こ」
考える隙もなく被された蒼の言葉に、今度はそっちに頭がいっぱいになる。
だって蒼に手を引かれているから。
その行動はまるで現実味を帯びていなくて。
あたしは他人ごとのように感じながらも、相変わらず心臓はバクバクと大きく鼓動していた。
2人の間を、心地良い爽やかな朝の風が通り抜けていく。
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