第1章

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猫なら三万、犬ならば二万。合成では一万。何の話かというと三味線の皮の話である。猫を飼っている人にこの話はしない。鬼畜の如くと蔑んだ目で見られるのは分かりきっているからだ。猫が嫌いな訳ではない。もちろん犬だって。かわいい動物が出演している番組だってよく見ている。注文がきてから準備して、獲りに行くから日数がかかるのよ。仲間内では冗談で済まされる。彼女たちの何人かは猫や犬を飼っているらしい。偽善者ぶる必要もない。世界は奇妙な回転をしている。グレープフルーツと温めた牛乳を朝食としてから、今朝一番に電話をかけた。昨夜ものすごい音を発てて三味線の皮が破れたのだ。狼男も逃げ出すような断末魔の叫び声を上げて。合成ならば破れない。でも音が全く違うのだ。知ってしまえば安くてもどうしても満足はできない。そうして何年かに一度張り直すことになる。仔を産んだ猫は駄目なのだと言われている。女子の立場で考えると理不尽な事実だ。決して差別ではなく、やはり音が問題なのである。例え単なる遊びではあっても。往々にして、遊びほど金がかかるものだ。本職は事務員である。職場はコンクリートが剥き出しの古い四階建てで、エレベーターも存在しない。毎朝、自力で階段を上って出勤するので、踵のある靴なぞここ数年、新調していない。職場の所長は三十過ぎで、事務員の出す湯呑みのお茶を飲んで、他の所員と窓際にて過ごす。最近、男子高校生が働き始めた。勝手に色々と彼らを比べてみては、ため息の出る毎日である。
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