第1章

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面談の予定時刻より早くついた。 「子供達の世界では、トラブルは日常茶飯事ですから。 加害者、被害者という立場がコロコロと入れ替わりますし。 重要なのは『行為』を叱ることで、子供達を責めすぎては、また繰り返します。 慎重に見極めたいので、私がしばらく翔君に付こうと思いますが……」 やって来た副担任の教諭から説明を受けた。 ストレスがイジメの引き金になるかもしれない。 副担任の安田先生と連絡帳のやり取りが始まった。 家庭の様子と学校での様子、翔の感情にどんなことが響くのかを重点的に交わした。 安田先生は事細かに記してくれた。 砂を投げつけたのは一度だけで、後はケンカも無い。 気に入らないことがあると、押し黙っている。 確かに翔はそうだった。我慢強いとか穏やかだと思っていた。 『お母さんは問いかけないで下さい。 嘘をつくようになると、結局本人に返って来ますから』 初めの面談でそう言われたので翔には秘密だった。 『意図せず加害者になることもあります』 『気付いてからの謝罪に意味があります』 『翔君は友達を庇っているようですね』 『誰かを虐めている様子はありませんが、引き続き注視したいと思います』 その言葉に、安心した。 と同時に、他に別の問題でもあるのかと心配になる。 「ねえ、翔のことなんだけど」 沙奈子がそう言いかけるのを夫は遮った。 「虐めてなかったんだろ?お前は気にしすぎなんだって。」 「そうなんだけど、ストレスがあるみたいで」 「それ、お前がピリピリしてるからだよ。お袋も言ってたぞ。翔が神経質なのは沙奈子に似たって」 それを何でもないことのように言う夫の態度こそショックだった。 けれど言い返したら、やっぱり神経質だと言われる。 もう、この人には言えない。 言わない。
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