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5年生の、あの日。
塾に一番に来た私は先生の砂時計を勝手に触っていた。
そして、正太くんが来たことに驚いて、落として割ってしまった。
途方に暮れる私に、箒を持ってくるように正太くんが言って、戻ってきたら、ケイちゃんやみんなが正太くんを責めていて。
言い出せなかった。
それを見ていた正太くんと同じ小学校の生徒からイジメが始まったんだろう。
「ごめんなさ、い。そんなつもりじゃ」
「それが自分の息子が砂を入れられたくらいで青い顔して。
あー、面白かった。
ちなみに砂を入れたのは、翔だよ。
砂場で遊ぶのを教えたのは俺だけど」
言葉が出せなかった。喉から、ひゅうひゅう乾いた音しか出ない。
「善意で庇ってやっても、結局嘘をついた本人に返って来るんだよ。
な?」
今まで、励ましだと思っていた連絡帳の言葉がどれほど悪意に満ちていたかわかる。
今なら。
ニヤニヤと笑う目の前の男に憎悪が生まれた。
「そんな睨むなよ。
本当は翔を傷つけてやろうと思ったけど。
もう何もしねえよ。
あいつ、いい奴だし母親の事好きだし。
だけど、アンタは怯えろよ。
虐められてて辛いのは
虐める側の気まぐれだよ。今はなにもなくても、小さなミスを犯したらまた突き落とされる、っていう恐怖。
アンタは、そういうのが堪えるタイプだもんな。」
笑って砂時計を投げてきた。
プラスチックのおもちゃは地面に跳ねた。
どれくらい経ったのか。
翔が、覗き込んでいた。
「ママ、頭痛いの?」
「ううん、大丈夫よ。帰ろ」
しっかりしなきゃ。
「あ、これ何……」
目ざとく見つけ翔が手を伸ばそうとした。
それよりも早く、踏んだ。
割れる音はガラスの澄んだものではなく、安いものだった。
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