《3》

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  「できる限りのことはしますけどね」 そう言って笑った並河先生の目尻に、シワが寄る。 あの頃にはあったかな、なんて、ついそう思ってしまった自分を恥じた。 「廣田さん、申し訳ないんですが別件があって、僕はここで」 「あっ、はい。ありがとうございました」 「よろしければこの後並河先生とも打ち合わせなさってください。ここでも結構ですし、先生の研究室をご覧になるのもいいですよね。参考になるかもしれませんし」 ふいに思わぬ提案を振られて、言葉がうまく出なかった。 一瞬遅れて、私は緊張を飲み込むように、山口さんに微笑み返した。 「そうですね、ありがとうございます。引き続き、よろしくお願いいたします」 「こちらこそ。ではお先に失礼します」 私に会釈を返し、「並河先生、後はよろしくお願いしますね」と言い残して彼は去っていった。 並河先生と二人、残されて。 思いがけない展開に、黙り込むくらいしかできない。 .
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