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ふぅん、と唸るだけの加賀宮の様子に目を眇め、柾木はふっと口許を緩めた。
「じゃ、おれ行くから」
「お、おう」
軽く手を挙げて加賀宮の前から立ち去る柾木は、鉄製の階段を軽やかに駆け下りていく。
アパート前に停まっていた軽自動車の運転席には、柾木の姿を見てきょとんとする女性の姿があった。
さらさらと揺れる艶やかな長い髪。色白で清楚な雰囲気の若い女性だ。
「花怜、お待たせ」
車に乗り込むと恋人の花怜は驚いた口調で、
「早くない? もういいの?」
「うん」
「じゃ、もう空港行くよ?」
「お願いします」
走り出す車の助手席から何気なくアパートを見上げた柾木の視線の先には、
「……」
平たい顔に粘りつくような笑みを浮かべた加賀宮がいた。
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