第1章

2/3
前へ
/3ページ
次へ
俺の家は昔凄まじく貧乏だった。 早いうちに父さんが亡くなったみたいで、物心ついた頃には父さんの記憶がなかった。 とても優しくて温かい人だったのよ、と母さんが言っていた。だけど父さんの記憶がない俺にとってはどうでもいい話だ、内心はいつもそう思っていた。俺にとって一番大事なのは母さんだけ、ただ唯一の家族であり俺を一番理解してくれてる人だったから。 そんな母さんも去年他界した。 その時は現実を受けいれれなかったけど、さすがに今は立ち直ってる。 あれは俺が小学校中学年になったころの話だ。 俺が住んでた家は絵に書いたようなオンボロアパートで、壁は黄ばみ、所々にヒビみたいなものがあった。今思えばスゴイとこに住んでたと思う。 その日は俺の誕生日だった。うちが貧乏なのは当時でも知ってから誕生日をいわってもらうという考えは俺にはなかった。 母さんが仕事から帰ってくるまで家の家事をして待ってた時のこと、いつもより帰りが遅いな、と感じる。 少しすると母さんが帰宅、俺は母さんが何かを隠してることに気付く。 「なに隠してるの?」 すると母さんは言う。 「誕生日おめでとう。こんなモノで悪いけどプレゼント」 母さんはそう言って綺麗に包装されているモノを僕に渡す。 「…いいの?」 「あたり前じゃない、あなたのために買ってきたんだから」 俺は包装紙を破る。 なかに入っていたのは何も変哲もないただのお茶碗。 「あなた専用のお茶碗よ」 母は笑顔で言う。 たかがお茶碗、それでも当時の俺には特別嬉しかったのを今も憶えている。どんなモノでも良かった、ただ母さんが俺のためにプレゼントを買ってくれた、そのことが死ぬほど嬉しかったんだ。 俺は中学に入り同時に母さんに反抗的な態度をとるようになった。 いわゆる反抗期だ。 時に母さんに暴言を吐き 時に母さんに暴力をふるった。 あの時は本当に申し訳ないと思う。 それでも母さんは俺をちゃんと育ててくれた。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加