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イクトは、私の顔を見上げました。
とろんとして
涙を溜めた瞳は…美しくて…妖艶でした。
「本当?」
幼子のように尋ねてくるイクト。
『私が嘘を言ったことがありましたか?』
「ううん…ない…ないよ。」
微笑む彼の瞳から一筋の涙が流れました。
その涙を拭い頬を撫でました。
熱を持ったイクトの身体を離し
再び手錠を見ました。
嫌でも目につく…イクトの痛々しい手首。
きっと
逃げようとしていたのでしょうね。
膝で踏んでいた枕は、濡れていました。
イクトは…泣いていたんでしょうか。
どれだけの恐怖を…一人で…背負って…どれだけの痛みを…味合わせたんでしょうか…
「龍月…怒ってる?」
突然訊かれて、ドス黒い思考が飛んでいきました。
「龍月、怒った顔してる…よ?」
気まずそうなイクトの顔。
私はそんなに…険しい顔をしていたのでしょうか?
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