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この裏長屋に1人ひっそりと居を構えてから
幾年が過ぎたろう
私は僅かな朝粥を済ますと
機へ向かう
今は昔
鉄砲水に村が飲まれた
私はただ
飲み込まれゆく村の家屋敷を
その悲運を嘲笑った
何故だったろう
何に憑かれ
何を呪って――
ちくり
「おまえさんもよう働きなさる
もうこの村の外でも
その仕立てに魅せられん者はおらんじゃろの」
弓のような腰を後ろ手に叩く老婆の独り言を聴きながら
私は黙って機に向かう
「どれ、幾分か長居をしたようじゃ
ちぃとばかり見惚れる楽しみを取っておくとするかね
次の満月にの」
縁側からゆっくりと消え去る影に緩慢な会釈を返す
身よりの無かった私を引き取り
この暮らしをあてがってくれたあの老婆でさえ
私の身の上すら知らぬのだ
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