泡沫風靡

4/9
前へ
/10ページ
次へ
草木の寝息が風に揺れる ことりと格子戸が鳴いた 約束の満月の夜 私は機に向かったまま 老婆の影を軒下に探した 影がユラリと姿を現す 「もし、お仕立てを願います」 ちくり 聞き覚えない低い声色に 胸の痣が独りでに跳ね踊る 「すまんです 今夜はもう仕立てはしておらんのですが…」 「そうでしたか ならば あなたの素肌を一目見られるなら それでいい」 ちくり 声の主は 見事な朱色の衣を返すと 私の機織りの手を 其のしなやかな掌で覆っていた 銀髪の夜叉―― この世の美を一重に纏った男は たちまち私を 絶倫の淵へと沈めた
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

17人が本棚に入れています
本棚に追加