17人が本棚に入れています
本棚に追加
草木の寝息が風に揺れる
ことりと格子戸が鳴いた
約束の満月の夜
私は機に向かったまま
老婆の影を軒下に探した
影がユラリと姿を現す
「もし、お仕立てを願います」
ちくり
聞き覚えない低い声色に
胸の痣が独りでに跳ね踊る
「すまんです
今夜はもう仕立てはしておらんのですが…」
「そうでしたか
ならば
あなたの素肌を一目見られるなら
それでいい」
ちくり
声の主は
見事な朱色の衣を返すと
私の機織りの手を
其のしなやかな掌で覆っていた
銀髪の夜叉――
この世の美を一重に纏った男は
たちまち私を
絶倫の淵へと沈めた
最初のコメントを投稿しよう!