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微かな衣擦れの音
華の薫り
蕾を裂く花弁の如く
うねる血潮が臓物を掻き分け
痣を不自然に波打たせた
私は身を捩りながら
朱色の跡を追う
耳元で夜風が導く
帰ろう
帰ろう
夢見の園へ
衣の端が枝をくぐり
漆黒の森を抜けて飛び去る
突如眼下に広がる淵
絶壁に取られた両脚は抗う術を失い
気付けば地を蹴っていた
男の放った種子は
肉を食い破り
随に届く
真紅を散らしながら
私は身を投げる
赤痣が咲かせたのは
何時か見た花園に咲き誇る
真紅の華
私は深く深く
水底へと沈みゆく
その深淵に見るものは
顔 顔 顔
獣人に魅入られし朱を
その身に芽吹かせながら
湖底を彩る見知った顔たち
その一つ一つに咲きかけた華が
私を染める朱に呼応するように
一斉に咲き誇ると
ひとつ
またひとつ
花弁を散らす
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