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陽光が燦々と降り注ぐ中、現実感を失って、俺は一歩を踏み出せずにいた。
お伽噺で、道に迷って魔女の家を発見した時のような感覚。
視線の先に聳え立つ建物に、目だけは吸い寄せられるのに、身体が拒否反応を示しているような……
「いかがいたしました?」
凍りついたように動けない俺に向けて、横手から声が掛けられた。
それは、本当に突然だった。
気配も足音も何も感じさせずに、鈴の音のような澄んだ声が、直ぐ近くから真っ直ぐに、此方へと飛んできた。
俺は、文字通り、硬直していたのも忘れて飛び上がった。
数センチは確実に地面から浮いた。
「お客様でしょうか?」
反射的に振り返った俺の不審な挙動を怪しむような事も無く、彼女は尚も声をかけてきた。
「へ!?あっ、あの……」
取り繕うように返答しかけて、また固まった。
腰まで伸びた長い黒髪。
前髪はきっちりと眉の下で切り揃えられ、やけに白い肌を際立たせる。
不思議そうに瞬く、睫毛の長い大きな瞳。
桜色に色付く薄い唇。
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