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のろのろと決まった目的地もなく、今夜の宿を求めて駅のほうへと歩いていく。
夕暮れ時の都内の街並みは賑やかで、家路を急ぐ人と、一日の終わりを名残惜しむ人とで二分されている。
俺の住んでた辺りじゃこの時間になるとぐっと人通りは減り、田畑の間にぽつぽつとまばらに建つ家々から微かに夕餉の匂いが届いてくる。
それに比べると、今のこの景色は音も、香りも、灯りも多くて、違和感や興奮を覚える前に、知っている人が誰もいない、知らない土地にいるのだと逆に実感させられる。
頭の中では、店長さんにもう一度連絡して、せめて今夜の凌ぎをお願いしようか、はたまた安ホテルを探そうか迷っていた。
あの後、消防士がバタバタと行き来する中、邪魔になっても仕方ないので退散することにした。
店長さんは後で落ち着いたら電話をくれると言っていたが、店が消し炭になった今、俺が働ける可能性は零に近いだろう。
望月大和(モチヅキ ヤマト)。初出勤にして失職。
流石にここまでくると自分の薄幸加減も国宝級な気がしてくる。
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