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「あ…クスっ」
ノアノブに手を掛けて、あることに気づいた。
思わず頬が緩む。
僕は確かに、助けを求めたことはあった。存在を叫んだこともあった。だけど、自分から外へ出ようとなんてしなかった。
だからーー
だから、気づかなかったんだ。
この扉には、鍵なんてなかった。
鍵なんて最初から掛かってなかったんだ。
引いた扉の隙間から光が差し込む。
流れ込んできた白い光が風になって僕の身体を駆け抜ける。
『本当に辛いのはこれからだよ? へーき?』
角膜を刺激する白の世界で、僕の耳に柔らかく暖かな言葉が届く。
その声はきっと、さっきの少女のもので
「……うん!」
でも、そんなことはもうどうでもよくて
『そう。じゃあ、行こう』
ただ嬉しかった。
「うん!」
純粋に嬉しかった。
『ほら』
差し出された手を掴む。
だって、僕は1人じゃないから。1人じゃなかったから。
そうでしょう?
そう心で呟いて僕は振り返る。
僕を閉じ込めていた小さな部屋の影が薄れ、風景に溶けいく姿がそこにはあった。
だって、君は僕のーー
僕の心だったんだ。僕が作った、僕だけを守る壁。
無意識に動いた口。その口から音は出なくとも、ちゃんと届いたと思う。
ありがとうって
遠い遠い光り輝く真っ白な世界に僕は憧れた。だけど、こんなに近くにあったんだ。
僕はもう気づけるよ!
足元に転がる小さな幸せに
この手で掴んだ柔らかい幸福に
もう二度と見失わないで行こう
"昔"へ別離を告げる。
少年は前を向き、光の中へとその足を踏み出す。
まだあどけなさの残る足取りで、それでも着実に過去よりも一歩、今よりも一歩前へと歩む。
小さな少女に手を引かれながら
ーーfinーー
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