第2章 鈴蘭の花

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 ソファの奥には、ガラス玉の燭台に銀の刺繍のテーブルクロスが敷かれた円卓と、上にはキラキラ光る小さなクリスタルガラスのコップが2つ…―。  シュシルはそれを見ると不意に眉を寄せて、目を逸らした。 顔を横に向けると濡れた髪の先からしずくが数滴落ちていく。 長い睫をゆっくり伏せようとしたが、エメラルド色に光る目の隅に、床に落ちている鈴蘭(すずらん)の花が映っているのに気付いた。真っ直ぐな眼差しがその鈴蘭の花に向けられると、シュシルは驚いたような表情を浮かべたがすぐにふっと唇を綻ばせ大きな青碧色のソファに腰掛けた。その花を見つめながら、シュシルは自分の頬が熱を帯びていくのを感じていた。  そっと指を伸ばし、鈴蘭の花に触れる。  指の腹から伝わるその花の感触に、シュシルは微かに目を細める。ブルーとエメラルド色の瞳が僅かに揺れ瞳孔が大きくなり瞳孔の奥には鈴蘭の花を持つ胡桃(くるみ)色の髪の少女の姿が写されていく…―。  暫くするとシュシルはふーっと息をついて腕で汗を拭くと、身体に早鐘のように響く心臓の鼓動の響きを聞いた。  …何故だろう―  後もう少しで分かりそうな気がするのに―  シュシルは鈴蘭の花を、その優しい眼差しで見つめ続けていた。考えている様子のシュシルは、鈴蘭の花を見つめるばかりでテラスの中の青々とした植物や色鮮やかに花を咲かせた中庭、テーブルクロスに置かれたコップをもう一度見ようとはしなかった。何度か思考を巡らせるうちに鈴蘭の花を手に取ってそのまま顔に近付け唇に重ねると、ふと何か思い付いたように立ち上がりテラスを後にして飛び出して行った。  
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