4人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ
辺りは静謐(せいひつ)を保っていて孤独さえ感じる程―
遠くに聞こえる掠れた鳥の囀りや山籟(さんらい)の音の外聞こえるものは何も無い、筈…―
シュシルはふっと息を吐くともう一度腰元の内ポケットに眼を向けその長い指で触れた。そのまま手を額へ当て目を瞑り自分を嘲笑するように口角を少し上げる。片方の透き通るようなエメラルド色の瞳が開かれ瞳孔がわずかに揺れ大きくなる。
銀色の門の鉄格子の上には、遥か前に散った灰色に萎靡(いび)た葉が何枚か乗り、横に大きく伸びた茱萸の木が一筋の陰を作り銀色の門を所々薄い陰にして揺らしている。慎重に近付き門に手を触れる。途端にガガッガガと鈍く低い音を立て無理矢理門が開かれ上から葉が舞い落ちる。門が開き終わるとシュシルは短剣をもう一度握りしめた。
鼓動をやや早めた自分の心臓の響きを聞きながら、シュシルはもう片方の閉じた瞼をゆっくりと開ける。汗は引きそうにない。 そのまま途なりに真っ直ぐ行くと小高く傾斜になった坂があり、その行き止まりの先に城の扉へ続く階段と高い天井のある大きな両開きの白い扉があるのが見え進んでいった。
最初のコメントを投稿しよう!