13.

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 思いもしない悲しみというのは人を呆然とさせる。声が出ない。涙が出てこない。体が動かない。思考まで停止する。  気が付くと病院のベッドに横たわっていた。母が心配そうな顔で覗き込む。 「美奈子、病院の方から連絡を受けて、あんたが倒れたって聞いたから。」  そうなのだ。康介に呼ばれたような気がした後、記憶がない。突然のことにしばらく意識を失っていたそうだ。  のちに母に聞いた話だが、ベッドから起き上がった私は抜け殻だった。 まるで幽霊が歩いているようだと言っていた。声もなく次から次へと涙を流し、立っていた。 それから3日間の記憶がすっかり抜け落ちていた。 葬儀ではお義母さんの計らいで親族席に座って、気丈に挨拶をしていたと聞いた。 そう聞いた。記憶がないのだ。最後に棺には康介の大好きだった桜の花を入れていたと聞いた。
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