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 かろうじて覚えているのは康介が大学時代かわいがってもらったという佐恵子先輩が声をかけてきた時だ。 「美奈子さん。覚えてる?大森・・・あ!旧姓岸井佐恵子です。」 「あ・・・大学のバスケ部のマネージャーだった・・・。」 「そうそう、あの時は焦ったな・・・康介君なんか蒼白になってたし。でも初めて会ったのにすぐにわかったわ。ああ・・・康介君の言っていた通りの女の子だって。」  佐恵子さんは少し遠くを見つめるようにつぶやいた。 「康介君、美奈子さんにゾッコンだったわね。恋愛禁止なんて決まっていなかったけど、下級生が『彼女がいます!!』なんて言うと先輩からボコボコにされていたから、康介君には黙っているようにって助言したの。でも、康介君まじめすぎて・・・『彼女を不安にさせちゃいました。』なんて頭かいてた。」  康介が言いそうなことだ。佐恵子さんも康介のことを思い出して軽く微笑んだ。 「気をしっかりね。もし何か相談に乗れることがあれば話、聞くから。電話して。」  佐恵子さんは握りしめていた携帯ナンバーとメールアドレスを書いた紙を手渡してくれた。 紙を穴が開くほど見つめていたら、ぽんぽんと肩を軽くたたいて、佐恵子さんは去って行った。 覚えているのはそれだけ。いつまでもその紙を握りしめていた。
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