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利休の茶席に呼ばれた瀬田は、待庵を離れていく客人達の声を背に庭を眺めていた。
開始の時間が遅かったこともありもう辺りは薄暗くなり始めている。庭木を見上げながら冷えた空気の中で呼吸をすると、肩の力が少しずつ抜けていく気がした。
茶席は寛ぐものだと師は言う。彼の言葉の通りに招かれた武士は刀を置いて茶室に入り、日々の諍いなど表に出さず時を過ごしていた。瀬田も普段ならば倣っていたのだが、そうはいかない。
今回の茶席、瀬田は『その中』にあって妙な緊迫感を抱いていた。
表向きは周囲に合わせ茶の席を楽しむように取り繕ってはいる。しかしふとした拍子、自然と空気が途切れる僅かな間合いの中で彼の目線は静かに動いていた。
後々に心此処に在らずだと師からお叱りを受けるつもりは毛頭ない。だが感覚は拭い切れず、静かに重く胃の痛みへと変わっていった。
(…『誰』、だろうか…)
招かれたのはそれなりの地位を持つ者が多く、険悪な噂を聞く組み合わせはなかったように思う。
和やかな空気の中で、 誰かの感情が彼の精神に引っ掛かっていた。それは強く突き刺さるような鋭さではない。
例えるならば波だ。抑えきれない感情を無理矢理に鎮めているような波。
妙に神経過敏な性格故か、はたまた性質故の神経過敏か。瀬田はこの『波』を読み取ってしまう性質を持つ。
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