待庵。とある茶席のこと。

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瀬田の其れは「性質」であり、「体質」とはまた異なるものだ。 その違いは精度の高低よりも、扱い易さという前提の個人差だと瀬田は考えている。 日頃頼るには心細いが、山勘よりはずっと役に立つ。そういった認識の下、自身の体質と付き合ってきた。 途中で足を止めては全神経を集中させ、探し出した『波』へと向かっていく。繰り返される動作は、糸を手繰り暗闇歩むのに酷似していた。 急ぎたい欲求は理性が程良く抑制しつつ、慎重になりがちな彼の背を押していく。 (騒ぎが起きた方が辿り着くには早いだろうけれど、それは思わしくない) 先日の二の舞は避けたい。それは紛れもない彼の本心。 通い慣れ馴染みもある小さな邸が、今はとてつもなく広く感じられた。 茶室に背を向け廊下を進み、玄関ではない場所から外に出て…やがて建物の裏手に辿り着いた瀬田の耳は、微かな人の声を捉えた。 言い争いとは言えない静かな言葉の行き来に、足を止め様子を窺う。 探していた人物特有の言葉遣いが、聞こえた。 「今んなって、こないな手ぇ込んだ事してくれはるとは思わんかったわ」 聞き慣れたはずの仲間の声は、口調は変わらないまま何処までも冷たく響く。 瀬田が知る温和な彼との差異に少なからず衝撃が走ったが、今は気にしている場合ではない。 周囲に人の気配がない事を確認すると、その場所で息を潜めた。
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