夏の蠢(うごめ)き

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相手が殊勝に懺悔しているようで、その実、どこか得意げに、年若い女中に「誘惑されて」手を付け、孕ませてしまったので悩んでいると語った時、何かが自分の中で切れてしまった。 「それは若い娘に誘惑されたのではなく、あなたに邪な気持ちがあったからこそ、過ちを犯したのでしょう」 「あなたこそ妻とした女性を裏切ったばかりでなく、年若く未熟な相手を堕落させた張本人です」 伯爵はすっかりご不興になってお帰りになった。 あの方に正面きっての批判は禁物だと重々承知していたはずなのに。 まあ、どうせ生まれてくる子をどこか近隣の街の修道院に預けたいとかそういう相談だろうから、近々またいらっしゃるはずだ。
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