春の目覚め

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「今日は顔色が良くないようだね、マルタ」 窓から差し込んできた春の柔らかな光を背に、私は苦心してさりげない声を出す。 音を立てないように息をふっと吸い込むと、朝方念入りに掃除したはずなのにどこか埃(ほこり)っぽい。 ほのかに薔薇の香りが匂う気がするが、一昨日(おととい)目にした時にはまだ蕾(つぼみ)だった通りの花がもう開いたのだろうか。 「神父様、お分かりですか」 目の前に座す若い娘の水色の瞳に、戸惑った様で、その実どこか嬉しそうな光がきらめいた。
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