夏の蠢(うごめ)き

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「そうですよね」 相手は打ちのめされた風に俯くと、これまでと打って変わって寂しい声を出す。 「父さんももう長いことないのに、あたしときたら自分のことばかり」 啜り上げると、まるで汚れが染み付く前に拭き取るかのように、マルタは手の甲で素早く両の目を拭った。 「そんな女、振り向かれなくて当然だわ」 返事をする前に、彼女は立ち上がって行ってしまった。 後には、もう散ったはずの薔薇の香りが馥郁と残った。
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