『奴隷区』超書評(スーパー・レビュー)

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『奴隷区~僕と23人の奴隷~』は、サスペンス・アクションであり、広義のサバイバルものにカテゴライズされるだろう。  しかし、従来のゲーム系ノベルとは一線の画した、はっきり言ってしまえば「奇書」だと私は考える。  エブリスタの、携帯小説界の『虚無への供物』だと思う。   ……膨大な暗喩、隠喩に加えて、言葉遊びを随所に散りばめた構成の文章。  タキオ、ジュリア、ルシエ、それにマサカズ、エイア、ユウガ、アヤカといった数々の「癖のある愛すべきキャラクター達」の視点が、マルチアングルかつザッピングで描かれ、あたかも映画『グランド・ホテル』の様な多人数視点群像劇かと思いきや、それぞれの視点が交錯し、彼ら・彼女らはリレー形式で人間関係を形作っていたのだということを、我々読者は思い知ることとなる。  奴隷となって、仕掛けられた方が決める。この定義が最高だ。  自己決定権を他者に委ねるという、一見すると倒錯したパラドックスをよく理解すると、後に大勢の人物達が踊らされているものの「正体」にはたと気付き、思わず声を上げてしまいそうになる。  冒頭のキャバクラシーンからして、【誰かが誰かに奉仕する】という意味合いの舞台設定になっているのは、お見事であり、熟慮すれば皮肉としか言いようがない。  実は、今作『奴隷区』では、この他にもお姫様カフェ、ホスト、看護師、金融業(貸す側と借りる側の関係)や『犬』など、ほとんどの登場人物が、支配する・されるというフィロソフィーに組み込まれていることを、作者がそれとなく伝えているのだ。お気づきだろうか?  A地点からB地点までという、ソリッドな視点変化がすぐさま次のキャラに移動するのみならず、まるで東京都内を走る【山手線】の如く循環している、しかもそれが同一地点に着地するというアイディア。  簡単な様でいて、これを一つのストーリーに完結するのは、並大抵のことではない。  
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