『奴隷区』超書評(スーパー・レビュー)

5/5

24人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
 ところで、この物語には、複数の(いや、ほぼ全ての登場人物が)【ある地名】を口にしたり、モノローグで回想したりする場面・台詞があり、読者は皆 「なんじゃいな?」  そう疑問を持って、読み進めることとなるのである。  この【ある地名】については、最初はてっきり「作者・岡田伸一(あれぁれぁ)先生が好きな場所なのだろうか?」と勘違いする程の頻度で出て来るのだが、ちゃんと(それもとても重要な)意味があったことを、全ての傍観者は目の当たりにし、その刹那感動と驚愕に打ち震えることであろう。  地名(とそこに隠された背景)が、『奴隷区~僕と23人の奴隷』のレゾンデートルになっており、ひいてはSCM追跡システムとも直結しているのは、ただただ心からのハンド・クラップ。  心憎いまでの演出なのは、ギャグかと思わせておいて、それを180度ひっくり返す文章のテクニックと魔術である。  とにかく、読んで欲しい。それに尽きる。    これ以外にも、『奴隷区』には山の様にメタファーや言葉遊び、思わぬ仕掛けが隠されていて、それら全ては2度、3度読み返すごとに、徐々に明らかとなって行く。噛めば噛むほど味のある、乾物的魅力ある小説だ。  犬。イヌ(奴隷のメタファー)の執着する匂いであったり、製パン工場勤務の青年が欲する甘味(脳内麻薬ドーパミン・報酬系)。 「ひゅうほう」という音からだと、二通りの解釈が出来る人物。その敵対関係。  中でも特筆すべきは、品川ゼロという青年の描かれ方ではないだろうか?  主要登場人物中、一人称が唯一「です・ます」調となっており、これが重大なエクスキューズになって、読む者に新鮮な驚きを与える。  後半、ある女性キャラクターの視点が二重(入り子構造)で記述される場面があり、それはメタフィクション的サプライズで我々に迫って来るが、詳しくは書けない。是非、原作で! 
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

24人が本棚に入れています
本棚に追加