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「一週間後に戦技大会が開始、期間は四日。一日目にAからDブロックの予選トーナメントの前半を行い、二日目はEからHブロックまでの予選トーナメントの前半戦。三日目に八ブロックの予選トーナメントすべてを終了。そして四日目にそれぞれのブロックから勝ち残った八名による決勝トーナメントを行います。同町村からの出場者で同じ予選ブロックに割り振られることはありませんから、ご安心ください」
そこまで言い、騎士はふう、と短くため息を吐く。
「やーっと仕事終わったー! 今日までずっと帳簿書いてたけど、もう肩が凝る凝る」
苦笑いしながら肩をぐりぐりと回す騎士。他の者と交代はしているものの鎧を着て長時間椅子に座りペンを走らせるだけとは相当に苦行なものだ。
「いやよかったね。あと少し遅かったら登録だめだったよ」
薄いバイオレットカラーの髪と同質の色を秘めた瞳を細めて快活に笑う女騎士。先のは業務上の模範的ポーズであり、本来はあんな堅苦しいしゃべり方は好みではないのだ。突然の豹変に唖然とする少女達に騎士は肩を竦めて見せる。
「ごめんね、騎士ってイメージを崩しちゃったかな?」
だが騎士が砕けた態度をとったのは、むしろその幻想を壊す目的もあった。高潔で強く、厳しく優しい、城に仕える騎士様。この国ではそんなイメージが色濃く存在しているが、その実そんなことはない。無論そういった人間もいるにはいるが、要は強さのみで成り上がった者達だ。精神なぞ民の思うような綺麗なものではない。
間違った未来を見据えて騎士になろうとしているのであれば、改めて現実を見せておいてあげたいと思ったのだ。恐らくは目の前の若すぎる兵士達がかわいく見えたからに違いない。
「おや、そこの胸のちっさな子と隣の子……トパズちゃんとダイチちゃんだったっけ。は、あんまり驚いてないね」
予想通り大半が目を丸くして固まる中、腰まで届く綺麗な金色の長い髪を下ろした、鋭さを感じる金眼の少女と、かかとまで届きそうな長い黒髪を同様に下ろし、ただし隣の金色の少女とは対照的に漆黒の瞳はずいぶん優しげだ。先程記帳した記憶を掘り起こし、二人の名前を呼んでみる。
「聞いたことがありましたから。あと、胸が小さいって言わないでくださいっ」
「部下に仕事を押しつけて自分はぐーたらしてる女騎士を、昔に見たことがあったんです」
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