キュン視官

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 「製造元にこのタイプの鬘を購入した客がいないか、確認してみてくれる?」  「了解」サロン刑事はラボの出入り口に向かうが、ピタリと脚を止め、私の方をちらりと見ると、  「先生…、あの」  未だ私に何か用事でもあるのだろうか?「なに」と訊ね返すと、  「良かったら、その、今夜、食事でもどうです?」  食事の誘いだ、彼は私にとって恋愛対象としては、今一つ物足りない感じの男だが、特段、職場恋愛をする積もりは私には無い。 けれど、この所、イヴモアの相手ばかりで、誰かと食事なんてする事なぞ無かったし、悪くないかも――。  「ええ、良いわよ」  ゴム手袋を外しながら返事をする。  「それじゃあ後で」  サロン刑事はそう言うと、ラボを退室し、オフィスに戻っていた。 それにしても、割烹着のような作業服ばかり着ている為か、異性との食事にどんな服を着ていけば良いものだろうか。 どんな会話を盛り上がれば良いのだろうか? キュン死とは何かに始まり、人がキュン死するプロセスを科学的根拠に基づいて語った所で、サロン刑事はつまらないだろう。 過去に検挙した犯罪者の自慢話でもしてくれたならお互い様だが。
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