Act.1

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「……!」  声にならない悲鳴を上げながら起き上がると、隣には知らない男が寝ていた。繰り返す。隣に知らない男が寝ていた。 「……えええええ」  そう言ってみるものの、隣の男が眠っているので、知らず声が小さくなる。こんなところで気を遣ってどうする、と自分に突っ込みながら、とりあえず冷静になろうと隣の男を観察してみる。つやつやの黒髪に、穏やかに閉じられているまぶたは二重。唇は厚くもなく薄くもなく、鼻筋は通っている。どこをどう見てもただのイケメンだった。どこをどう見てもただのイケメンがなぜ俺の隣で寝ているのだ! と冷静になるつもりがさらに混乱してきた。  今度は恐る恐る自分の身体を検分してみる。ご丁寧にというか、余計なお世話というか、着ていた(と思う)服は脱がされて、パジャマに着替えさせられている。俺はそこで最悪の予想をした。これは、なにか、あった。もっと言うと、隣の男と、なにか、あった。全身から血の気が引く。  いやいやいや。なぜこうなった。大体、俺の恋愛対象は女の子だし、冗談でも知らない男と同じベッドで寝る趣味なんてない。と、そこで脳が覚醒してきたのか、昨日のことをぼんやりと思い出してきた。  確か昨日は、同じ大学の同期で親友である佐藤佑介と飲みに行ったのだ。飲みに行って、で、一軒目で飲み足りなくて二軒目に行った。しかし、俺の記憶はそこでプッツリと途切れている。佑介と一緒に飲みに行ったのになぜこの状況なのか。わからないにも程がある。酒か。原因は酒か。  俺は着慣れないパジャマのまま、ベッドの上で項垂れた。酒って怖い。いままで目が覚めたら女の子が隣で寝ていた経験もないのに、いきなり男とは。まじ酒コワイ。もう酒はやめよう。というか人間やめたくなってきた。いけない方面へ知らないうちに目覚めてしまいました……さようなら昨日までの俺……。  悟りの境地でぼうっと目の前の壁を見つめていると、床の上でなにかがもそもそと動く気配がした。俺の身体はビクリと反応する。おいおいおい、まだなんかあんの? あまり見たくないものの、隣で男が寝ている以上の衝撃はもうないだろう、と思い視線を向けると、そこには例の佑介が寝ていた。繰り返す。昨日一緒に飲んでいたはずの佑介が、床で寝ていた。
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