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俺は思いっきり布団を跳ね上げると、床に転がっている佑介のそばへ駆け寄った。そして彼の身体をガクガクと揺らす。
「起きろおおおおおお」
佑介はガクガク揺さぶられながら、「ちょ、ショーコ……」と寝言を言っている。ショーコって誰だよ! お前の彼女はマリだろ! といらない突っ込みを入れつつ、あまりにも佑介が起きないので、彼の頬を引っぱたいた。パンッ、と予想外に大きな音が響く。動揺しすぎて力の込め方がわからなくなってしまった。ゴメン、佑介。
その佑介は、左頬の痛みでやっと目を覚ました。彼はなにが自分に起こったのか理解できていないようで、頬に手のひらを当てながら俺を見上げた。
「……マリ?」
「マリじゃねーよ! 俺だよ! 理緒! 桜井理緒!」
佑介はパチパチと瞬きをすると、やっと目の前の俺を認識したのか、心底ほっとしたような溜息をついた。佑介お前……、と思ったが言わないでおいてやる。正直、いまはそれどころではない。俺の貞操が奪われてしまったのだ。
「ああー……理緒」
「そう、理緒! ところでここはどこ!」
俺は佑介の両肩を掴んで真剣な顔で問い詰める。
「俺、昨日お前と飲みに行ったはずだよな?」
「おお、そうそう」
佑介は俺の剣幕に若干引きながら、それでも律儀に答える。お前いいやつだな。
「で、あの人、誰」
俺は片手でベッドの方を指差した。そこではまだイケメンがすやすやと眠っている。これだけわーわー騒いでおいて目が覚めないなんて、よっぽど激しいプレイでもしたのだろうか。自分で考えて悲しくなってきた。
佑介は俺の指が指す方へ顔を向けたあと、俺に視線を戻した。その顔は心底めんどくさそうで、彼の呆れたような視線がグサグサと刺さる。えええなにこれ、悪いの俺?
「あれ、須永さん。須永……彩人さん? だっけ?」
「誰だそれ!」
俺が叫ぶと、佑介は溜息をついた。だからお前と飲みに行くの嫌なんだよ、と言われる気がする。
「だからお前と飲みに行くの嫌なんだよ……」
ほうらやっぱりね! って喜んでいる場合ではない。
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