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「お前、ほんとに覚えてないの?」
今度は逆に佑介に聞かれて、俺は動揺した。何も覚えてないので、正直に言うことにする。
「覚えてない。全然。まったく。これっぽっちも」
佑介の溜息が深くなる。ああ、なんかすみません……。佑介とはよく飲みに行くのだが、大体俺が飲みすぎて、記憶をなくす。けど、知らない男が隣に寝ていたなんてことはいままでなかった。せいぜい、自分の部屋に居酒屋のジョッキがあったりとか、灰皿があったりとか、リモコンがあったりするくらいだった。おかげでうちはセルフ居酒屋状態だ。
「お前がナンパしたんだろうが!」
その言葉とともに、頭に手刀が食らわされた。痛い。いや痛いけどそんなことはどうでもいい。
「はああああ?」
俺がナンパした? あのイケメンを? えっ、つまり俺がお持ち帰りした方? えっ、ちょっと待って脳の処理能力が限界突破。
「お前昨日すげー酔っ払って、道端ですれ違った須永さんに散々絡んだんだぞ」
佑介が眠そうに頭を掻きながら説明し出す。
「俺が『すんません!』って謝って須永さんからお前を引き離そうとしても、お前酔っ払って『おにーさんカッコイイねー!』とか言い出してさ」
佑介は大きなあくびを一つして、目尻に溜まった涙をごしごしと拭った。
「須永さんも酔ってたのかわかんないけど、テキトーに相手してくれてさ。そしたらお前が『おにーさんちで飲み直そう!』って言い出して」
「……サイテーだなそいつ」
「お前のことだっつの!」
佑介から二度目の手刀が降ってくる。
「まー、なんかそんなで、いまこの状況だよ」
最後の大事なところの説明を盛大に省かれたが、自分から積極的に聞く勇気もなかったのでそのままにしておく。佑介は相変わらず眠そうな目でぼんやりしているが、彼の緊張感のなさとは対照的に俺の心の中は大荒れだった。
ええと、まず、佑介にはあとでジュース奢ればいいとして、須永さんとやらには土下座して謝ろう。俺の絡みにノッてきたということはけっこうフランクな人なのかもしれないし、まあ土下座すれば許してくれるような気がしないでもなくない……。あとは、佑介にも一緒に土下座させよう、うん、そうしよう。
「うるせえぞバカ二人」
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