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唐突にかけられた低い言葉に、俺と佑介の二人が同時に同じ方を向いた。ベッドの上にはイケメンが起き上がってこちらを見ている。どうやら須永さんはご機嫌斜めのようだ。ご機嫌斜めというか、もうちょっと正確な言い方をすると、どうやら怒っていらっしゃる。
俺は急いで佑介の隣に座ると、彼の後頭部を引っ掴んで床に押し付けた。それと一緒に自分も頭を下げる。隣の佑介はぐええ、とか情けない声を出しているが無視だ無視。
「まじすんませんでした!」
俺の大声が部屋の中に響く。チッチッチッ、と時計の秒針の音だけがしばらく響いた。どれくらい頭を下げていたのか、いやさすがにもう許してくれてもよくない? と思えてきた。須永さんはなにも言わない。うわあ……うわあ……本格的に怒っていらっしゃる……?
「あの! あの、ご迷惑かけたお詫びに、今度メシでも奢らせてください!」
そう言いながら顔を上げる。
「あの、まじ、俺にできることだったらなんでもするんで!」
俺は上げた顔をもう一度下ろした。なんでかというと、イケメンが怒ると普通の人より二割増くらいで怖かったからだ。イケメンて得だよな……、と自分には縁のないことを思ってしまう。頭の中の一部分はやけに冷静だ。こんな場面で自分がイケメンではないことを自覚する必要は断じてない。てゆうか、俺だってそこそこイケてると思ってる。ちょっとチャラチャラしてる風に見られるが、告白だって人並みにされてる(と思う)し、付き合った彼女の人数だって人並みだ(と思う)。まあ、いま彼女いないけど。
そこまで頭を下げたまま考えて、俺のいいところは楽天的なところだよなーと心の中で自画自賛したあと、ハッとして慌てて般若心経を唱え始めた。いやいやいや、謝る時はちゃんと謝らなくては、という義務感に駆られる。なんで般若心経なのかは自分でもわからないが、浮かんでしまったのだから仕方がない。
すると、頭上から小さな笑い声が聞こえてきた。俺は秒速で再び顔を上げる。ついでに佑介の頭を押さえつけていた手もどけた。二人並んでベッドの上に視線を向けると、須永さんがくすくす笑っていた。おお、イケメンて笑ってもカッコイイな! とか感心している場合ではなくてだな。
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